ちょっといいできごと
先日、昼間の電車内での出来事である。ちょうど私学の小学生の下校時間と重なったようで、車内にはランドセルに制服姿の男の子と女の子のグループ(小学校1年生くらい?)が居て、ワイワイ騒いでいた。眠かったのと、騒がしいのは苦手なので、その集団を避けるように隅に座って目をつぶった。案の定、電車が動き出すのと同時に、小学生軍団のキャッキャという騒ぎ声が耳に入ってきた。気になって目をやると、あっちでは男の子同士で小さな喧嘩が勃発し、こっちではグループの大将らしき男の子が何人か男の子を引き連れ、つり革にぶら下がって大声を上げて遊んでいる。
『あ〜、やだな〜。うるさいなあ』違う車両に移ろうかと思ったが、下車まであと数駅。もうそれも面倒だな、と目をつぶってやり過ごすことに決め、あとは知らん顔で過ごしていた。
次の駅で、私より少し上と見られる女性が乗車してきた。騒がしさを知らない女性はたまたま空いた小学生軍団の席の前に座り、私と同じくすぐに目をつぶって座席の手すりにもたれかかっていた。
電車が発車してまた小学生軍団の騒ぎが復活。同じ車内の大人を見て、みんなよく耐えているなあ、なんて思っていたら、急に騒ぎのトーンが下がった。あれ? と思って目を開けたら、さきほどの女性が、グループの大将を捕まえて注意をしている。
「あのね。電車の中は静かにするところなのよ。うるさくしていると、ほかのお客さんが困るでしょう。わかる? ここは遊ぶところじゃないのよ」
そういう彼女を見て驚いた。席から話すわけでも、立って彼らを見下ろして話すわけでもなく、ちゃんと膝を曲げて腰を下ろし、両腕で彼の両肩を持って顔の位置を同じにし、しっかりと目を見ながら話しているのである。芯の通った強い声で、あくまでも穏やかに。
さすがにやんちゃな大将も、大人しく彼女の話を聞いている。真剣な眼差しに、子供ながらも目をそらせないのだろう。その様子だけ見ると、学校の先生と生徒という感じで、「もしかして知り合い??」と思うほどだった。
「さあ、おばちゃんは次の駅で降りるからね。でも、もう騒いだらあかんねんよ。わかった?」最後までしっかり目を見て話す彼女に降参したのか、大将は小さな声で「はい」と答えて頷いた。それを聞いた彼女はようやく立ち上がり、笑顔を見せてから、ちょうど到着した駅に降りていった。
ドアが閉まると同時に「あのおばちゃん、誰やろう?」と大将。やはり知り合いではなかった。でもそれから彼らは急に静かになって、大人しく席に座っていた。あれだけ騒いでいた小学生も、注意されたことは恥ずかしかったのだろう。急に回りの大人の存在を意識したのもあるかもしれないが、それ以後車内は平和だった。
ここのところ、暗いニュースばかりが飛び交っている。大人であっても子供であっても人に関わることがどんどん難しく、面倒な世の中になっている。そんな中、ほんの数分の出来事だったけれど、なんだかいいものを見せてもらったような気がした。怒るのでもなく、叱るのでもない。自分の子供ですら注意できない親が増えている世の中で、ちゃんとよその子供に『いけないこと』を『教える』ことができる大人に出会えたことは、ちょっと心の救いになった。かといって、では彼女と同じことができるかと問われたら、正直返答に困るのだけれど……。そんな私には何も言う資格はないのかもしれない。でも、小学生の彼が、両肩に添えられた彼女の手のぬくもりから、少しでも何かを感じ取ってくれていたらいいな、なんて思いながら電車を降りた。

